How’s goin guys, It’s Koshin(@k__gx88)
東京と埼玉の県境に位置する八潮市に、知る人ぞ知るディープスポットが存在する。その名も「八潮秘宝館」だ。写真家でもあるオーナーの兵頭喜貴氏が自宅を改装し、自慢のラブドール達を始め、古今東西から集まった魅惑品を陳列するミュージアムだ。
2022年9月2日、兵頭氏の活動を記録したドキュメンタリー映画『HYODO 八潮秘宝館ラブドール戦記』が公開された。それから半年が経った今、映画製作のことにも触れつつ、どのような経緯でラブドール収集に魅了されて現在の活動に至ったのか、その人生に迫った。
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美しいモノに囲まれたい
「昔から美しいモノが好きで、造形として綺麗なものに囲まれて生きていたいと強く思っていた。流石に子供の頃から考えていたわけではないけど、気付いたら好きなモノを集めるみたいなことに注力していったのかな…」
兵頭氏は開口一番で言った。
1973年愛媛県に生まれた彼は、『装甲騎兵ボトムズ』『メカゴジラの逆襲』といったアニメや特撮を見て育った。その当時から、サイボーグやメカの変体や改造シーンに強い興奮を覚えたという。その一方で、いわゆる女の子が好むアニメにもハマり、特に『魔法の天使クリィミーマミ』の優ちゃんにゾッコンだったと語る。
建設業を営む実家に生まれ、加えて父親は地元の町議会議員だったということもあり、なかなか厳しい環境で育ったという。
「それが嫌で嫌で仕様がなかったから、地元を離れるように名古屋の東海大学に進学した。その頃から、写真や映像といったカメラ活動を本格的に始めたんだよ。当時は今より機材費など全てが高かったから沢山バイトしたんだけど、中でも『半導体工場の夜勤』が今でも鮮明に記憶に残ってる。DVDプレーヤーが正確に作動するのか(画面に映るか)の確認作業を担当してたんだけど、連日のように同じ動画を見続けることのストレスったらもう…。ただ、時給が1800円って破格だったから頑張れた。10万だった定価が 5万になったときにヨドバシに買いに行ったんだけど、“あぁ僕が確認したプレーヤーかもしれない” って感慨深くなったのを覚えているよ(笑)」
跡取り息子ということもあり大学卒業後に実家に帰ることになるが、待っていたのは父親の自殺だった。
「建設業の経営難が続いているって話は聞いていたんだけど、その他にも沢山の出来事が押し寄せてきたらしく、結局は首が回らなくなって…。本当なら長男だからって家業を継がなきゃいけないんだけど、地元が嫌いすぎるから逃げるように上京したよ」
頼れる存在は皆無だったらしい…
「とりあえず川崎に住み始めた。それから少し経ったら偶然にも住んでいた家が区画整理で立ち退きにあって、100万近くの臨時収入が入ったんだよね。それでサブカルの聖地でもある高円寺に引っ越したんだけど、正直あんまり肌に合わなかった(笑)印刷工場で働いて写真を撮るために金を稼ぐ日々が続いていた時、たまたま株で一山あたったんだよ。それで “これは行けってことだ ” と解釈して、兼ねてから興味のあった『日本大学大学院 芸術学研究科 映像芸術専攻』に行くことを決めたんだよ」
「昔から人間を撮るのが苦手で、廃墟的な朽ちた風景が主な被 写体だった。ある時、かなり前から目を付けてた空き地に寄った ら、ゴミの山の上にマネキンの足が刺さってるのが見えて、それ拾 った時に世界が変わったのを感じたね。幼少時代に、アニメの影響で『百貨店のマネキン』が好きだったんだけど、当時のワクワク感が蘇ったね」
それは丁度『オリエント¹』のラブドールを買おうと思っていたタイミングだったという。
「たしか初めてHPが公開されたくらいで、カタログなんかも取り寄せたりしていたんだよ。当時の人形は20万ほどだったから、立ち退きで貰った金から買おうと思えば買えたんだ。それで、何を買おうか悶々と吟味している時にマネキンを拾ったわけ。もうこれは運命だと思って撮影を始めた。そしたら、その世界観から抜け出せなくなっちゃって(笑)少し話が変わるけど、写真技術の無かった遠い昔は、王様が自分の肖像画を描かせていたよね。それと同時に蝋人形も造られたりしていたわけ。カメラの無い時代っていうのは、そうやって人を忠実に再現する道具を作って後世に残そうとした。時代によって人を映し出す媒体が違うわけで、『人形×写真』っていうのを『死んだ世界ともいえる廃墟』で撮影したのは画期的だったという自負があるよ」
※¹オリエント工業:1977年創業の特殊ボディーメーカー。「心の安らぎ」を得られる女性像の開発を目指し、性処理だけが目的の単なる「ダッチワイフ」ではなく、人と相対し関わり合いを持つことができる「ラブドール」を創ることを理念としている。
写真集として優れた作品を造り続ける一方で、やはりラブドールということで変な目で見られることは日常茶飯事だった。とはいえ、ラブドールは『ただSEXのために使う道具』では決してないと述べる。
「学生時代に美術部や写真部だった僕にとっては、特別にラブドールだけを集めて作品化する癖があるというより、人間を記憶する写真や動画や蝋人形などが『どれだけ美しく作られていて、それを綺麗に残せるか』が行動の軸にあるんだよ。言わずもがな生身の女性も大好きだけど、そもそもラブドールと人間を比較対象と認識することが間違っている。僕にとって彼女らはフェラーリやランボルギーニといった高級車と同質で、持っていることで格好イイだろって思える対象なんですよ。世の中には、例えば小石・Tシャツ・絵の具など傍から見たら変だけど特定のモノだけを集める収集家は沢山いますよね?僕にとっても同じ、たまたまラブドールだっただけなんだ」
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