How’s goin guys, it’s Koshin(@k__gx88)
僕は週刊誌が好きだ。最近は専らオンラインの記事に触れる機会が増えたが、時間があれば本屋で立ち読みするし特集によっては購入もする。
初めて週刊誌をレジに持って行ったのは高校3年の秋だった。ただ、それはニュースを読みたいからではなかった。
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おぼつかない足取り
図書館で本を借りては空想の世界に入り込むことが大好きな「月島雫」は、受験勉強をほったらかして本の虫になっていた。ある夏の日、ベンチに忘れた本を「天沢聖司」に拾われたのだが、中に入れていた「コンクリートロード」のメモ書きを読まれ、“やな奴” と繰り返した。
その後も頻繁に図書館に足を運んで本を借りるのだが、貸出カードに必ず自分よりも先に借りている男の子の名前があることに気付いた。
調べたら手に取る本の全てに彼の名前があり、宝探しゲームのように闇雲にその他の本を漁った。次第に彼の存在に思いを馳せるようになっていった。
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数年前、膝の手術を行い3週間ほどの入院生活を送った。抜糸を終えた頃は特筆して痛みはなく、ただただ曲らない棒が付いているだけで感覚すら消えていた。ベッドに横たわり何も出来ない日が続く。リハビリの成果が出始めたのか、1週間ほどすると無感覚から痛みに変わり始めた。
その時、夜分に性なる悪魔がソッと囁き出した。無意識に抑えていた欲望が暴走を始めたのだ。そうなるとだ、たかだか数分間のエロ動画が食らうスマホのギガ数に涙したのは言うまでもない。毎晩と顔を見せる彼に抗うことを放棄し、ギガ数については忘れ去ろうと決意した時、ゆっくりと向うから天使が優しく手を振って来て呟いた。
「1Fに売店があるの」
なんて愚かだったのかと恥ずかしくなった。昔々、公園の草むらや用水路の脇で見つけたエロ本があるではないか。
文明の利器に頼らずとも暴走を抑えることができる。もはや止まる必要など一切なかった。思い通りに動かない膝を優しく撫でながら、部屋を出てはエレベーターに飛び乗った。
慣れない松葉杖をつきながら無理をしつつ不恰好に歩く様は、端から見ると懸命にリハビリをする青年だが、合致しているのは人間であることのみで一切脚のことなど考えていない。欲求に忠実に生きる鼻下の長い野生の猿であった。
生まれて初めて週刊誌を手にしてレジに並んだ。高鳴る心臓の鼓動。「リハビリも兼ねて買ってこいと父に言われた」と、タジタジになりながら求められてもいない説明をした。
ダサすぎる。
病室へ戻るとき、松葉杖を使用したのか覚えていない。
濫りがましさを恥じる
さて、4人部屋に戻ってきた僕は軽快にベッド周りのカーテンを閉じた。夕方には看護師もリハビリのトレーナーも訪ねて来ないのを知っている。
雑誌の中ごろにはカラーのグラビアページがあった。見開き3ページに亘り広がるグラビア掲載に心を躍らせた。
初めの2ページは服を来た女性の正面と後ろ姿。続けてページをめくると、服がキャミソールに変わっていた。なるほど、ブラジャーにパンツという下着姿を見せず、あえて透けたキャミソールを披露することで、次のページで広がる裸体への羨望を加速させる腹らしい。
隣のベッドから聞こえてくる国会中継の音が小さくなっていく。鼓動の高鳴りだけを認識する。次には妖艶な肢体がある。静かにページをめくる。
そこには後ろ姿でアップにされた尻が映るだけであった・・・
念のため次のペースも確認したが、白黒の記事が味気なく広がっている。裸体を見れなかったことに怒りを覚えた。半殺しだ、どうしてくれる。
もちろん始めは大いに落胆したのだが、落ち着きを取り戻し記事を一瞥する。そこにはトレンドとなっていた「2020年オリンピックの東京誘致に成功」や「福島第一原発の汚染水問題」などの情報がワンサカ載っていた。
例えば、海に流れ出る汚染水については多量の海水で放射能が薄まるんじゃないかという情報が当時出回っていたのだが、生物濃縮により食物連鎖を経て魚の体内に蓄積されていくというのだ。
TVニュースで話題となっている情報を受け身で知る程度だった僕からすると、目から鱗が出るほどの衝撃だった。それは、たまたま気付いた「聖司くん」の名前に心を奪われた「雫」のように。
無知は罪と明確に思い知った。
?
今どきの若い子供たちはサッと検索すれば無数に存在するエロ動画を視聴できる。
ただ、以前アップした『動画サービス全盛期であっても、僕がレンタルビデオ屋に通う理由』でも述べたが、偶発性の中でこそ出会えるモノや芽生える感情は確かにある。「目的を達成すれば次の行動に」といった合理的思考だけでは人生はツマラナイ。
僕はエロ目的で買った週刊誌に世界を変えられた。あの時ベットの上で覚えたキラキラした感情を誰かにも体験して欲しい。
とはいえ半殺し状態が続くのも癪なので、すぐに「アサヒ芸能」を購入した。