ほんの出来心でデリヘル面接
ほとんどの福祉施設は行政の公的資金で成り立っているゆえに法人として利益を増やす経営は難しく、限られた予算の範囲内で運営する必要がある。コロナの影響により業務が変わり忙しさが増したとしても給料が格段に上がるわけはなく、ストレスは増大していく一方だったという。
「生きたコミュニティという福祉の現場で人の役に立ちたいと意気込んでいましたけど、基本的に業務が逼迫している中で次第に心の余裕が無くなっていきました。覚えることが多く着いていくのに必死だった最初の3年間は確かに充実していて、利用者からの感謝の言葉を聞くだけで頑張れた。それが破綻したというか、コロナによる社会の閉塞感が施設内を覆い、何かと不自由な空間から逃げ出したいと思ってデリヘルに応募したんです」
現在の施設での勤務形態は、早番-日勤-遅番-夜勤-公休というスケジュールが組まれている。場合によっては日勤として出勤して仮眠をとって夜勤を担当しないといけないこともあるそうだ。その中で、合間を縫って単発でデリヘルとして都内ラブホテルに向かう日もあるという。
「ストレス発散で酒に逃げていた時に、京成立石の飲み屋でデリヘル嬢の子達が隣で飲んでいて会話を聞いていました。給与が少ない生活を続けてきましたけど、少しでも足しになるならと決心した形です。不謹慎というか変な言い方になるんですけど、あくまで私の場合は仕事柄そういうサービスに抵抗が少なかったのもあります。彼女達の話ぶりからも嫌な客は適当に捌けばいいというか、もし危ない目に遭ってもドライバーが駆け付けてくれる安心感もありますしね。今は月に2〜3日ほど出勤して平均して10万くらいは稼げていますが、将来のために貯金していますね」
デリヘルで稼いだ分を含めると大体30万近くの手取り金額を得ていることになる。とはいえ福祉施設の給料が上がれば直ぐにでもデリヘルは辞めると言い放った。
胸を張って福祉士と言いたい
コロナが5類感染症に移行する少し前の2023年2月頃、介護事業者の休廃業が過去最多を記録したというニュースが各情報サイトに掲載された。
「年々と潜在福祉士が増えているって聞きます。資格を保有していながら介護職に従事していない人を指します。一方で、要介護者の数は年々増加傾向にあり人手不足が進んでいます。それでも、一度でも現場から離れてしまうと戻れなくなるかもしれないって気持ちも分かります。処遇改善に関しては体感としては全く動いている気がしないですが、現場が声を上げなければ何も変わらないので引き続き会社には給料や休暇については言い続けていきたい」
公益財団法人社会福祉振興・試験センターが発表した「令和2年度社会福祉士、介護福祉士及び精神保健福祉士就労状況調査結果の公表について」では、介護福祉士582,319人の回答があり、そのうち約20%が「福祉・介護・医療以外の分野の仕事をしている」「仕事をしていない」を選択した。介護従事を辞めた要因としては「心身の健康状態の不調」「給与や賃金の水準に満足できなかった」の割合が高かった。
冒頭でも紹介した通り、紗絵さんは幼少期に祖父の介護をしていたという経験があったからこそ介護士を志した。人に寄り添い生活を彩る手助けをしたいと業界に入った人間が、業界を見限って離れていくケースが加速している。医療崩壊が叫ばれて久しいが、現場は日々混乱と不満の声が相次いでいるという。
「やっぱり介護は昔から馴染みあることですし、今も変わらず利用者の方のために働けることに有難味を感じながら働いています。ただ業務量と給与のバランスを考慮すると喜んでいられないのも事実。私たちが何のために働いているのかということに関心を持って貰いたいのと同時に、少しでも早く環境が良くなっていくことを願っています」