客の紹介で美容クリニック
次の就職先までの繋ぎとして入ったメンエス。持ち前の明るさから気づけば固定客も付くようになった。22時~5時のシフトで週に3回くらい働いており、コース時間やオプションによって変動するものの日当は平均して2万ほど。歩合制なので、客足が疎らであれば待機状態だけが長くなり金にならない時間を持て余している。
「こんなに楽に大金が入るとは思ってもみませんでしたよ(笑)ただ、待機時間が本当に億劫で…。殺風景な部屋で何を待っているのか分からなくなって寂しくなります。常連さんが入れば他愛ない会話をしながら健全なマッサージをする。抜き目当ての嫌な客が入れば心を押し殺してロボットのように適当にあしらう。朝日が昇るころに電車で帰りますけど、そのまま線路に飛び込みたくもなります。でも、たまにタイプのイケメン客が来たときは…心が躍りますけど(笑)」
メンエスを始めて3ヶ月くらい経った頃に転機が訪れる。常連の施術をしていた際、普段から看護師免許を保持していることを話していたのもあって、都内某所の美容クリニックで人材を募集しているという情報を教えてくれた。聞けば、知人が始めた新規店で、実務経験ある人を欲していると。話だけでもと面接に行った日、何となく日常を変えるチャンスと感じ直ぐに働けることを伝えた。
「今は週3回のシフト制で働いています。朝は10時に出勤して、夜は19時前後には退勤。入院施設を完備していない分、予約の通院患者しか担当しないので、総合病院とは比べ物にならないくらいイージーなんです(笑)患者のほとんどが若い女性ばかりなのも楽な理由の1つかな。昼職の生活リズムにも慣れてきて、健康的な生活になってきています。でもバイトなので給料は12万前後。だから、最低でも週1~2回はメンエスを続けないといけないんですよね…」
免許は棄てられないけど・・・
美容クリニックにて看護師としてのキャリアを再スタートとした彼女。時たまメンエスに入ることがあるみたいだが、前よりも少しだけ日常が明るくなったそうだ。
「今の生活は、クリニックが固定シフトなので、休みの日には少しだけ心に余裕を持てるようになりました。気分が落ちることが前より減って、お酒に頼ることも少なくなってきている。それでも、メンエスを辞めると生活が困窮するので、家賃分だけでもと思って月に数回は入っています」
メンエス嬢としての賞味期限が近付いてきているとも言及している。
「ずっとメンエス嬢を続けられるとは思ってません。それは精神的な問題だけじゃなくて、年齢的にも難しいと思っていて…。今は若い子が本当に増えてきているんですよ。例えば、いわゆる裏オプを黙認しているような過激店は、女の子がTwitterでプロモーション活動をやっています。最近ガサ入れで新宿を中心に何件か潰れたって噂で聞きましたけど、私が客でも可愛くてエッチな大学生に相手してもらいたいですもん(笑)」
今後についても話してくれた。
「周囲が明確な夢や目標を持って誠実な生活をしている中、何をしているのかと自問自答しています。メンエスだけで働いていた頃より真っ当になりましたけど、お金が必要だから夜の仕事を続けている。今は稼げているかもしれないけど、何が起こるか分からないじゃないですか?それと、せっかく手に入れた看護師免許をドブに棄てようとは思ってないんです。この先に結婚できるかは分からないし、将来を考えると不安で溜まらない。だから来年度には別の総合病院で復帰を考えています。ただ、また逃げたくなったらメンエスに戻ってきてしまうかもしれない…。こう見えて、結構人気なんですよね(笑)」
総合病院での挫折から精神科に通うほど疲弊してしまった。それでも、着実にステップを踏んで再起を図る奈緒さん。洗いざらい吐き出せたのか、前を向こうとしている彼女の顔は挨拶した時よりも明るく見えた。鼻下を伸ばした人間ではなく、歴とした患者を治療する看護師になることを願うばかりだ。